この部屋、とても暑いですものね。
ハンカチを貸してあげましょう。
いいのよ。
遠慮しないで、私は、優しい人だってよくいわれるの。
私のハンカチであなたの汗がおさまるならば、とてもいいことですもの。
私が拭いてあげましょう。
逃げなくてもいいのよ。
私に恥をかかせる気？
あなた、まさかそんなことはしないでしょうね。
私はね、親切でいっているのよ。
私は、何もあなたの汗を拭くために
ハンカチを持っているわけじゃないのよ。
親切で、いってるの。
あなたが私の親切を無碍にするということは、立派な裏切り行為よ。
あなた、私を裏切るの？
そんなこと、まさかしないわよね。
私のいったこと、あなたは聞いていなかったかしら？
あなた、耳があるんでしょう？

もう一度いいましょうか？

私はね、人に裏切られたことがないの。
人に裏切られることが大嫌いなの。
私ね、死ぬまで一度だって人に裏切られるような人生は送りたくないの。
いいえ、思っているだけじゃなくて、私は実行するわ。
だからね。
私を裏切る奴は殺すの。
私の幸せな人生を邪魔する奴だから。
当然の報いとして死んでもらうの。

・・・今度は、聞こえたかしら？

そうよ、逃げることはないのよ。
私は、親切でいっているのだから。
別に、あなたの汗をぬぐうことで、あなたをどうしようってわけじゃなくてよ。
まあ、こんなに汗をかいて。
大丈夫。
私に任せなさい。
あなたの汗、きれいに拭き取ってあげるから。
それで私のハンカチが汚れたからといって、
心配することも遠慮することもないわ。
どんなきれいなハンカチだって、汚れるためにあるんですもの。
それがハンカチが生まれてきた宿命ってものでしょ。
だから、いいの。
私の親切を無駄にしないでね。

そう、・・・・・・いい子ね。

ちゃんと拭いてあげる。
あなたの汗が一滴残らずなくなるまで、拭いてあげる。
だから、おとなしくしていなさいね。
ほら、きれいになった。

・・・・・・いいこと。
せっかく私が汗を拭いてあげたんだから、もう汗を流さないでね。
あなたが汗を流すとね、私の親切が無駄になってしまうの。


わかった？


せめて、私の話が終わるまでは汗なんて流さないで。
あなたが私を裏切らないのなら、
これから先あなたのこと目をかけてあげてもいいわ。
そう、思ってさえいるのよ。
だから、私を裏切らないで。
絶対に、絶対に裏切らないで。



　　　　　　――語り部の一人　
　　　　　　　　　　三年A組　岩下明美
　　　　　
　　　　　　　　　　『アパシー学校であった怖い話１９９５』
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　第五話　偽りの愛