御婦人の想像はとても速力がありますからね。
あっという間に、賞賛から恋へ、恋から結婚へと
飛躍しますんでね。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　オースティン
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『高慢と偏見』

愛国者 (patriotism n.)

自分の名声を明るく輝かしいものにしたい野心を持った者が、
たいまつを近づけると、じきに燃え出す可燃性の屑物（くずもの）。

ジョンソン博士は、あの有名な*辞典の中で、愛国心を定義して、
「無頼漢の最後の拠り所」と言っているが、この博識ではあるが、
辞典編纂者としては二流どこにしかすぎない博士に対して、
当然払うべき敬意は十分に払いながらも、
私は、失礼ながら、「最後の」ではなく、「最初の」と言いたい。
　
　*博士が独力で編纂した得意な英語辞典、一七五五年出版
　  ただし、正しくはボズウェルの『ジョンソン伝』の
　  一七七五年七月七日の個所で。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『新編　悪魔の辞典』
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　アンブローズ・ビアス著
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　西川正身訳
　

すばらしい雄弁家は、つまったら、唾液を吐く。
恋人が――神よ、困ったことでございます――
いう種がなくなれば、まず接吻して場をふさぐのが、
いちばんうまいやり方。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　シェイクスピア
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『お気に召すまま』
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　第四幕第一場

彼女たちの薄幸な生活を芝居でも見るように、
上から見おろしてよろこぶのだと誤解せられるような事は、
でき得るかぎりこれを避けたいと思った。
それには身分を秘するより外ない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　永井荷風
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『濹東綺譚』

お前は、その耳に挟んでるペンで、
しまいにはわしの眼に穴をあけるぜ。
わしに接吻する時だけは、
どこかへしまってくれることはできんか？
わしを見てくれ、ちゃんと煙草は口からとってるじゃないか

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ルピック氏
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『にんじん』
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ルナアル作

彼には一つの奇癖があり、
ただひとり車を駆って、
あてもないドライヴを試みる。
そうして袋小路にゆきあたるごとに、
慟哭して帰ったという。

　　　　　　　　　　　　　　　吉川幸次
　　　　　　　　　　　　　　　　『阮籍伝』

人は頭で、生きるというが
頭だけでは、まだ足りぬ
まあ、やってごらんよお前の頭で
生かせるものは、シラミ一匹。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　ブレヒト
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『三文オペラ』

流れるビールは泡を立てない。
諸君、急ぐなかれだ。

　　　　　　　　　　　　　ユーゴー
　　　　　　　　　　　　　　　　『レ・ミゼラブル』

ある人、水に溺れかかる。
そのせがれが助けを呼ぶと、おやじ。
水の中から頭を出して、

「銀三分でなら助けてもらうが、
  それ以上でなら助けてくれるな」

　　　　　　　　　　　　　　　馮夢竜
　　　　　　　　　　　　　　　　『笑府―中国笑話集―』

「あたしたち、今夜ね―――なんだと思う？―――
  あたしたち、今夜ね。
  あたたかいジャガイモがたべられるのよ！」

そして女の子の顔は幸福に光かがやきました。
ろうそくがその顔をまともに照らしました。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　アンデルセン
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『アンデルセン童話集』
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ろうそく

げに怒りは愚かな者を殺し
妬みは馬鹿者の生命を奪う。

　　　　　　　　　　　　　　　　『旧約聖書　ヨブ記』

どこの国だってほんとうの善人は多くない、はなはだ少ない。
美しい人も多くはない、はなはだ少ない。
しかしいないことはない。
ただそういう人にめったに会うことができないだけだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　武者小路実篤
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『友情』